栄養素を損なわない蒸し料理ブームひと頃のように色んな料理が出てきた時期と比べると、今は静かなもので、2010年に大流行した「食べるラー油」や、ドリンクの1アイテムにまで成長した「ハイボール」以外には、際立った食のブームは見られない。ただひとつ健康志向を背景に持った『タジン鍋』だけが静かなブームといえるかもしれない。 突んがり帽子に秘密があるそもそもタジン鍋とは、北西アフリカ、モロッコで使われている鍋をいう。材質は土鍋と同じ陶器だが、形状がユニークで、突んがり帽子のような形は一度見たら忘れられない。中国の鍋にも真ん中が突起して、そこから湯気や熱などを出すものがあるが、それとは異なり、帽子状をした蓋になっている。そして鍋部分は浅くて蓋に湯気抜きの穴があいていないのが特徴だ。なんでも蓋の表面が大きいために、水蒸気を効率よく冷やす働きがあり、重さもあるので蒸気を逃がさない仕組みになっているらしい。蒸された食材の水分が、水蒸気になって鍋内部で上昇し、突んがり帽子状の蓋に当たって、冷やされて鍋に戻ってくる。この状態を繰り返して調理されていく。水滴は蓋との間にたまり、密閉状態(ウォーターシール)を作り出す。機密性があることから、揮発性の香り成分が食べる前まで鍋の中にたまって保持される。これがタジン鍋の最大の特性といえよう。 料理ではなく、モロッコ生まれの土鍋のことタジン鍋とは、料理そのもののことではなく、元来は料理の際に使われる陶製の土鍋を指している。モロッコでは飲料水は貴重で、できるだけ水分を使わずして調理ができればと考えて、タジン鍋が誕生したわけだ。ちなみにこの鍋は、砂漠の先住民であったベルベル族が少ない水で煮込み料理を作るために考え出したと伝えられている。
タジン鍋は、モロッコだけではなく、アルジェリアやチュニジアでも用いられている。ただ、チュニジアのそれはポットの形が違うようだ。タジン鍋の特徴のところで、突んがり帽子型の蓋には穴がないと記したが、正確には穴があるものもある。穴のあるものは、沸騰すると、当然の如く湯気が出てくる。 野菜ブームが拍車をかけた日本においてタジン鍋は、ヘルシーな蒸し料理のアイテムとして派生したからだろうが、なぜか野菜を蒸す料理に用いられているケースが多い。しかし、モロッコではオールマイティな調理器具として使われており、これを使って焼く、煮る、蒸すの調理を行っている。野菜や肉、魚介類は勿論のこと、ご飯や麺、スイーツまで、これがあればできるのだ。 素材の旨みを閉じ込める鍋は水なし、油なしで健康志向にマッチとにかく形が可愛い、ヘルシー要素が強い、土鍋感覚で使えて、しかも、野菜は風味が濃くなり甘みがアップするといった理由から日本でブレイクしているタジン鍋。一過性の流行に終わらせるには、もったいない調理器具だといえよう。 |