中国と韓国の鍋が日本でブレイク
火鍋
激辛ブームや韓流ブームがあった影響から、日本でも辛い味の鍋料理が多く見られるようになった。この手の辛い鍋は、大半が四川料理や韓国料理に端を発しており、それらが日本で紹介されて、一般的になっていったものばかりである。
アジアの鍋の特徴は、二つの異なった意味から食されている。ひとつは寒さが厳しく、辛いものを摂ることによって身体を温める行為。そしてもうひとつは夏バテ防止の意味もあって暑い日に、より発汗作用を高めて身体を健康にしようという目的だ。前者の代表が韓国料理におけるチゲや四川料理の鍋で、後者が香港や台湾で食されている鍋を指す。
冬場に鍋料理を食べる日本人は、香港のように暑い地でなぜそれを食すのか不思議でならない。中国人に聞くと、香港の店では、冷房をガンガンに効かせており、その中で熱い鍋料理をつつくのがオツなのだとか。つまり、外は夏のような気候でも、店の中はそれを食べるに適した温度に設定されているというわけだ。
そんな暑~い香港の鍋料理といえば、火鍋が代表であろう。火鍋の特徴は、ひとつの鍋を半分に仕切り、二つの味を楽しむ点。ひとつで二度美味しいこの鍋器具は近年日本でも使われるようになり、それとともに火鍋の知名度がアップしていった。
火鍋というと、辛い鍋をイメージする人も多いだろうが、現地ではそうではないらしい。片方はサテーといって、サテーソースの素を使って作る。もう片方は
清湯
といい、鶏ガラスープを用いる。この二つがポピュラーな味だといわれており、日本で見られる火鍋とはちょっぴり違う気もする。辛いスープが当たり前のように出てくる火鍋は、むしろ上海での呉記麻辣火鍋がイメージづけられているのかもしれない。麻辣火鍋も香港の火鍋同様、鍋に二つのスープを入れて煮る。ひとつは辛いスープで、もうひとつは辛くないもの。この両方を鍋底と呼ぶらしい。香港での火鍋には、クレソンやレタスが入ることが多い。そして、すき焼きの如く、生卵に漬けて食す。締めにはインスタントラーメンを用いるケースも多いそうだ。日本ではうどんか、ラーメンが定番だが、アジアでは意外にインスタントラーメンを活用する所が多く見られる。
シメのインスタントラーメンはアメリカ軍部隊のアレンジ?!
チョンゴル
その最たる例が韓国のプデチゲだろう。韓国では、鍋料理をチゲやタン、チョンゴルと呼ぶ。チョンゴルは煮込み料理を指し、タンはスープ鍋を意味する。日本でもチゲ鍋はすでにおなじみとなっているが、正確にはチゲ鍋とは言ってはいけないらしい。チゲとは鍋を意味する。だから私たちがチゲ鍋といっているのは間違いで、訳すと「鍋鍋」と同じ言葉が重なってしまう。
韓国では、日本より気温が下がるらしく、寒い冬には身体を温める意味から鍋料理を食す。トゥブ(豆腐)チゲ、キムチチゲ、スンドゥブ(おぼろ豆腐)チゲ、肉や野菜を味噌(テンジャン)で煮込んだテンジャンチゲなど色々な種類があるが、大抵はコチジャン(唐辛子味噌)、チョッカル(アミの塩辛)、味噌の3種のいずれかが使われている。
プデチゲ
前述したプデチゲとは、伝統的な韓国料理ではなく、米軍の影響を受けた鍋である。この鍋が生れたのは朝鮮戦争時、駐留した米軍がチゲを食べようとしたことろ、肉や魚が入手困難だったために、肉の代用品としてスパムを用いた。戦争後、その料理だけが残り、米軍基地から流出したソーセージやスパムなどの加工肉製品を用いて、プデチゲが作られるようになったそうだ。そして、この鍋にはきまってインスタントラーメンが使われている。ちなみにプデとは部隊を指す。ソウルから1時間ぐらいの距離にある議政府(ウィジョブ)には、軍の施設も多く、その鍋の発祥地らしくプデチゲを出す店が並んだ通りもある。この地では、さすがにプデチゲと呼んでいないようで、地名をつけて議政府(ウィジョブ)チゲと言っているらしい。
個性の強いアジアの鍋料理
スンドゥブ
中国や韓国以外にも鍋料理がないのかといえば、そうではない。タイの鍋の代表ともいえるタイスキは、ひと頃はちょっとしたブームだったし、フォーやブンなどを入れるベトナムの五目鍋も専門店では食せるものだ。ただ、韓国や中国の鍋料理ほど流行る兆しは見られない。
文化的伝達度がその二国とは違うといってしまえばそれまでだが、やはり慣れない香辛料を使う点や、漢方色が強い点、鍋料理に酸味が強い点などが遠ざけている理由だろう。
多民族国家として知られるマレーシアには、中国人が持ち込んだと思われるバクテーなる鍋料理がある。漢字では肉骨茶と記す通り、豚のスペアリブが漢方のスープに入ったものをいう。身体を温める効果を持つ漢方と、ニンニクなどで煮込まれた肉や野菜は健康にいい。昔は日本のように、漢方をベースにしたスープの中で肉や野菜を煮込んで食べていたらしいが、今では初めに1時間ぐらい煮込んでから、小さな鍋に取り分けて供しているそうだ。この点も日本の鍋文化とは段々と異なってきている。
中国、韓国以外のアジアの鍋料理は少しクセの強いものが目立つ。ベトナムやタイもその傾向は強い。しかし、その中でもベトナムの五目鍋ほど日本人の舌に合うものはないだろう。チキンベースに、干しエビを加えたスープは、あっさりした風味。豚肉やフライドオニオンを加えて、コクを出している。最後に米から作られた麺(フォーなど)を入れて食すところも日本人にウケている点だ。この五目鍋は、そのまま輸入され、日本の店で提供したとしても人気を博すだろうが、中にはそのままの味で出すと受け入れにくいものもある。日本人が苦手な匂いを有した個性的なものや、酸味が強すぎるものなどはその類に入る。最近ではパクチーもかなり市民権を得たが、まだまだ匂いやクセもある味が苦手と敬遠する向きも多い。こういった味が少しは受け入れられるようになると、日本の鍋料理もまた違った趣を醸し出すようになるかもしれない。
日本になかった味を求めて―。 辛味が鍋料理に影響を与えた!
日本の食文化を見ていくと、鍋料理の主はむしろダシであり、昆布やカツオ節を使ったものがその大半とされている。それらでダシを摂り、あとは具材から出たエキスで旨みを増していく。
こと料理に関しては中国の影響を受けたものが多いのだが、鍋の分野においてだけは、ひたすら和の域を守っているといえよう。ただ、日本料理においては辛いというジャンルがあまりない。だから辛い鍋料理のみを直輸入したがったわけで、この風味だけが日本の鍋料理に影響を与えた。独特な香辛料や香草を使ったものは、なかなか浸透していかなかった。
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