アイデア満載の創作鍋の先駆け近代大阪を代表する鍋「バカス鍋」が生まれたのは約30余年前のこと。酒粕と味噌で風味付けされたおでん風の鍋だ。「おでんのようであり、でも、卓上に鍋を置いて温めて食べるので、鍋なんですよ」と話すのは三代目店主の高浜靖宏さんだ。 |
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昭和50年過ぎに登場した「バカス鍋」は、この斬新な味わいが話題となり、一躍人気を呼んだ。一時は、梅田、本町、天王寺など市内各所に6店舗まで増えたが、今はその味を継承するのは、淀屋橋の一店舗だけとなってしまったため、往年のファンが連日押し寄せる盛況ぶりだ。「今では、このレシピを知る人は数人いません。昭和を代表するオリジナル鍋を継承していくのが、私の責務だと思っています」と高浜さんは志を語る。 味わいは創業当時のまま。今までにない発想でバカス鍋を開発した初代オーナーは、美意識も高く、味は勿論、見た目の面白さや、楽しさにもこだわったのだそう。その形が今も、忠実に受け継がれている。食通でもあった初代オーナーは、料理学校で料理を教えるほどの腕を持っていたのだとか。 店内は、今も当時のおもかげを残す。黒と赤を基調とした店内は、今でも十分に洗練された空間は、当時としては、とてもモダンでオシャレな空間だったのだろう。「鍋というと畳の座敷でワイワイと食べるイメージしかなかった時代です。鍋をオシャレに楽しむことも、提案したんです。そのため、時代に敏感な人や、マスコミの関係のお客さんも多かったようです。デートにもぴったりな雰囲気だったと思いますよ」と高浜さん。また、当時から、銅でできたオリジナルの鍋を作っていた、味だけではなく、食事を取り囲むすべてのものにこだわる姿勢が伺える。初代オーナーの洗練された美的センスと、時代を先取りするアイデアの賜物といえよう。 |
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ワクワクと心躍るご馳走鍋バカス鍋の味の決め手は、厳選された酒粕と味噌だ。酒粕は、山形県の酒蔵から仕入れる生の吟醸酒のもので、見た目は甘酒のようにトロトロしている。すっきり辛口で、香り高い吟醸香が鼻をくすぐる。味噌は、香り高い信州のはと麦味噌を使っている。「どちらも、長いお付き合いをさせてもらっています。バカス鍋の味を長年支えてくれているんです。この酒粕と味噌でなければ、この味は作れません」と高浜さんは話す。 |
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定番の「おでんセット」(一人前1980円)には牛スジ、玉子、大根、ごぼ天、豚つみれ、ちくわ、餅きんちゃくとレタスなどの野菜盛りがセットになっている。「今では、鍋にレタスを入れるということも浸透してきていますが、当時はとても珍しがられたそうです。レタスは創業当時から入っているんですが、当時は鍋野菜というと白菜や白ネギなどが定番で、レタスを鍋に入れるところはほとんどありませんでした」というように、バカス鍋は当時、画期的に新しい鍋料理だったようだ。 3つの具材が1本の串に刺さった「おみき田楽セット」も人気が高い。シューマイ、ウインナー、かしわが刺さった「花かんざし」、湯葉、穴子、ひろうすの「三人娘」など、ネーミングも昔のままだそう。8本セットになっているので、一人前で24種類の具が一度に楽しめるのという優れもの。名物のひとつでもあるたこのやわらか煮は女性に人気が高い。各具材はそれぞれ煮込まれ、下味がついているため、ダシに入れ、温まれば食べごろだ。 その他にも、カキやタラの白子など、旬の食材が裏メニューとして具材に登場することもある。「カキは身がふっくらしてきたら食べごろです。白子もさっと火を通すくらいが、甘みがあって美味しいんですよ」と高浜さんも太鼓判を押す。 最近、注目度の高い柚子胡椒を付けて食すスタイルも30年以上前からというから、その先見の目は見事だったと言えよう。 |
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体を芯から温める鍋は冬にピッタリバカス鍋の食べ方は、具と一緒にダシをどんどんすすること。ダシを美味しくするためには、どんどん具を入れていくこと。そのため、おでんでもあるが、鍋でもあり、そして、具沢山のスープと言っても過言ではない。酒粕や糟汁が苦手な人でも不思議といけるのだそう。酒糟の効果で、じっくりと身体が芯から温まっていく。 |
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