大阪の真ん中にあるカニ専門店
大きな動くカニの看板や「と~れとれ、ぴ~ちぴち」のフレーズでおなじみの「かに道楽 道頓堀本店」は、大阪の観光名所のひとつともいえる存在だ。店の前にはあの有名なカニの看板の写真を撮ろうと修学旅行生や観光客が大勢集まっている。
なぜ、大阪の真ん中でカニ料理専門店があるのだろう?と不思議に思う人もいるのではないだろうか。創業者である故・今津芳雄氏は兵庫県・豊岡市の出身。今津氏が昭和33年に兵庫・城崎の有名旅館「金波楼」の案内所を道頓堀に作ったことから「かに道楽」の歴史が始まる。
昭和35年、今津氏は西道頓堀に「金波楼」の案内所に併設する形で、山陰・日本海で獲れる新鮮な魚介類を扱う「千石船」という飲食店を開店させた。しかし、当初の業績は思うように伸びなかったのだが、松葉ガニの解禁と共に、カニ料理が評判となり始める。中でも、カニを鍋で提供するという「かにすき」は、当時では斬新な発想であり、人気の的であった。
そして、今津氏の願望であった東道頓堀への出店が、縁あって実現し、現在の「かに道楽 道頓堀本店」の地に、日本初のカニ料理専門店「かに道楽」が昭和37年2月11日に開店した。高級食材のカニが食べられるとあって、開店と同時に連日満席の大盛況だったという。
「千石船」の開店当初に創作した「かに道楽」の看板料理・かにすきは、山陰・日本海の漁師が獲った魚介類を塩水で煮て食べる漁師料理『沖煮』を元に考えられたもので、ネーミングは「うどんすき」をヒントに『かにすき』と名付けられたのだそうだ。
また、松葉ガニは、漁期があり、禁漁期間にはカニが入荷しない為、今津氏は試行錯誤を重ねて松葉ガニを新鮮なまま保存・輸送できる冷凍技術までも開発したというから、その熱意には脱帽だ。そして、その冷凍技術を駆使して、はるか遠い北海道からも、カニを仕入れられるようにさせたという。
カニの旨みを引き出す秘伝のダシとは・・・
「かにすき」を注文すると、まず目をひくのが、カニをかたどった鍋。なんとも愛嬌のある鍋は、勿論、特注品だそうで、古いものなら20~30年くらい使い続けているものもあるのだとか。
この鍋にはられた透き通ったダシは、「かに道楽」を代表するものとして研究に研究を重ねられたこだわりのもの。道頓堀本店店長の大下さんによると「かにすきのだしは、創業当時からほとんど変わっていません。当時からの秘伝の味を守り続けているので、その配合を知っている人は数少ないんです。私も知らないくらいですから」とのこと。「かにすき」のダシは、秘伝の白醤油で作ったかえしに、こだわりの鰹節と、極上の昆布でとった白だしを合わせて作られるのだそうで「ダシは煮つまっても、味が辛くなりにくくなっているので、いつまでもカニが美味しく食べられるんですよ」と大下さんは教えてくれた。
「かにすき」は、カニ半身分と白菜やたっぷりの三つ葉などの野菜、カニ味噌がセットになっている。食べ方に特別なルールはないのだが、美味しく「かにすき」を楽しむポイントを大下さんに教えてもらった。「私のおすすめの食べ方は、まずは白菜を入れていただきます。そうすることで、白菜の甘みや旨みをダシに溶け込ませて味に深みを出していくのです。そして、カニを入れます。1~2分ほど煮てカニを食べると、最も美味しいと思います。煮すぎてしまうと、カニの旨みが出てしまいます。かにすきに使用しているカニは、生のままでも食べられるほど新鮮なものですが、煮るとカニの旨みが増して美味しいですよ」とのこと。さらに、「添えてあるカニ味噌は、そのまま食べても結構ですが、かにすきのダシに少し入れて、野菜やカニを食べると美味ですよ」と大下さんが教えてくれた。すっきりとしたダシをたっぷり含んだカニは、程良い甘みと旨みのバランスが絶妙。カニ本来の香りや風味がしっかりと堪能できる。
カニ料理専門店としてのこだわり
安定してカニを供給するために、現在では、日本、ロシア、カナダ、アラスカ等、世界各国からカニを仕入れている。また、北海道オホーツク紋別に自社工場を設置し、活きたカニを仕入れて工場で選別、加工をしている。特に、4月からはオホーツク海のカニ漁が最盛期を迎え、秋ごろまで新鮮なカニを各店舗に直送しているのだそう。また、11~3月には山陰地方の松葉ガニ漁が解禁となるので、カニのプロとも言える仕入担当者が直接山陰漁場へ買い付けに行き、目利きをし、各店舗に直送させているそうだ。「直送された活カニは、1匹から注文を受け、お客様のお好みの調理法で料理をさせてもらいます。例えば、半身は刺身、残りの半身をかにすき、カニ味噌は焼きといった具合にもできるます」と大下さん。
「かに道楽」はカニ料理専門店というだけあって、「かにすき」以外にも工夫を凝らしたカニ料理が数多く揃っている。また、「かにすき」は単品のみならずコース料理としても楽しむことができる(5500円~)。道頓堀本店は1~7階まであり、1~4階は道頓堀川を見渡せるテーブル席、掘りごたつの座敷席があり、6・7階は個室となっており、階ごとに分煙もされている。地元のみならず、全国から集まる観光客に愛され続ける大阪を代表する店舗のひとつといえるだろう。 |
カニ本来の味わいが堪能できる看板料理「かにすき」。写真は2人前。
まずは白菜を入れて、甘みを出す。カニは1~2分ほど煮れば食べ頃。
カニの身がふっくらとしたら食べごろ。お好みでかにみそをつけてどうぞ。
秘伝のダシは、開業当時からのものをそのまま受け継いでいる。
「やはりかにすきは一番人気ですよ」と店長の大下さん。
大阪を代表する風景ともいえる大きなかにカニの看板
昭和37年の開店当初の貴重な写真。初代の看板も道頓堀の目印だった。
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