京都の「鴨鍋」、兵庫の「ぼたん鍋」、和歌山の「クエ鍋」、三重の「すき焼」、大阪の「てっちり」「ハリハリ鍋」など、関西には豊かな郷土鍋が多数存在している。
大阪に暮らしている人は気付いていないかもしれないが、他府県から移り住んで来た人たちが、一様に驚くことがある。それは、スーパーマーケットに鍋料理の具材が、ふんだんに売られていることだ。
水菜、春菊などの野菜から、アンコウ、フグ、クエなど、関東では考えられないような鍋食材のラインナップが展開されている。冬場に家庭で行われる鍋の頻度も、関東に比べるとかなり高いようだ。フグの消費量は全国1位で、6割に達し、春菊の出荷量も全国2位。「鍋もん」好きの大阪人の食卓が、このあたりから見えてきそうだ。
大阪にはかつて、京橋口に川魚専門の市場、天満には青物市場や雑喉場(ざこば)があり、摂津平野の野菜や瀬戸内の魚介類など、新鮮な食材が入ってくる恵まれた地の利を占めていた。また北前船で北海道の上質な昆布が運ばれてきたことで、”ダシ“の文化が生まれた。
『ダシが旨いから、鍋が旨い』。新鮮な食材が豊富だからこそ、ダシに旨みが重なり、奥深い料理へと昇華する。
諸国の物産が集まり、「天下の台所」と呼ばれた大阪には、鍋物文化を育む素地があったのではないだろうか。
鍋文化の発展は大阪人独特の心意気にも起因がある。「一時で簡単に料理を済ませる」合理主義、「旨いもんはみんなで喰う」平等意識。簡単に手間なく作れ、家族みんなで楽しめ、片づけも楽チンといった手軽さが、鍋料理を大阪の庶民のご馳走として定着させていった大きな理由だろう。
また「旨いもんには金をかける」旦那気質が、多くの料理人の挑戦を支え、食文化を多様化させていったのだ。
大阪の食文化として、鍋料理が語られたことは、これまでほとんどなかったかもしれない。しかしながら、「てっちり」「ハリハリ鍋」「しゃぶしゃぶ」など、大阪発祥の鍋料理が多数存在する。
かつての道頓堀には、カキ鍋屋や魚すき屋が立ち並び、ハレの日は家族でひとつの鍋をつついていたという歴史も、今一度思い出しておきたい。
また、食のアイデアが豊富で、好奇心が旺盛な大阪人は、現代でも鍋料理をさらに進化させている。大阪で人気を博した「カレー鍋」や「もつ鍋」、「ちりとり鍋」などは今や全国で定番化しつつあるということも、ぜひ知っておきたい。
「大阪鍋騒動」では、大阪の「鍋料理」の魅力を一挙に紹介し、新たな大阪の食ブランドとしての可能性を提示してみたい。
関西・大阪21世紀協会